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1歩足を出した瞬間だった。
英太の足首に何かが絡まった。
ふわりとした感触を受け下を向いた途端、バランスを崩したのか英太は宙に浮いていた。
「ギャンッ」
英太が揉んどりうって倒れた拍子に、投げ出されたシンが背中を打って悲鳴を上げる。
「あ~あ、駄目だよ鈴。……君、大丈夫?」
呆れたような慌ててるような声を男は出した。
それは英太とシンのどちらを気遣ったのか英太には判らなかったが、横たわった自分の足許から申し訳なさそうに「ミャ~」と猫の鳴き声が聞こえたのははっきりと分かった。
「ね、猫?何で…………」
何でと言った所で、こんな人里離れた土地であれば野良猫などしょっちゅう見掛ける。
しかし、その猫を一目見た英太は違和感を覚えてついそんな言葉が口を突いたのだった。
小綺麗な毛並み、漂う気品、そして反物の切れ端だろうか……赤を貴重とした艶やかな色彩の生地が首に巻かれている。
その喉元には生地にアクセントを加える光沢のある紅色の鈴が添えられていた。
仄暗い中、遠くの電灯の明かりに薄らと照らし出されたその三毛猫の姿は、美しさと共に妖しさが立ち昇っていた。
「あ、あんたの猫ですか?」
「え?えぇ……まぁ……………ごめんなさいね、君。怪我は?」
妙に歯切れの悪い答え方が気になったが……特に痛む部分も無かった英太は、このまま土まみれになった格好で帰ったら母親に五月蝿く言われるのだろう事の方が気掛かりだった。
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