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「夏の声」 : 本編のあと、夏休みに入った直後の四人の話
終業式の日の一件で大勢に迷惑をかけたということで、しばらくは外出禁止の上携帯も没収されていた。
やっとそれが解除された俺はさっそく駅前まで出かける。ようやく俺の夏休みが始まったなぁ、なんて気分でふらりと本屋に入った。そしたら仁羽がいた。
「……」
外の音が全て遮断されてしまったような店内で、文庫本の棚の前で難しそうな顔をしている。
きつく結ばれた唇に、眉間に寄ったしわ、見慣れた銀縁眼鏡。夜の中で散々見てきた気がする横顔は、間違いなく仁羽だった。
どうしようか、と思った。
今までの俺なら、仁羽を見たってわざわざ声をかけることはしない。
たとえば他のクラスメイトなら、迷惑そうでない限り自分から話しかけるけど、仁羽の場合はそうじゃない。「話しかけるなオーラ」を全身から発していることがほとんどだったし、実際、声をかけても迷惑そうな顔で、嫌味やキツイ言葉を浴びせられる。
わかってるから、自分から話しかけるなんて選択肢はなかった。
だけど、今の俺は知っている。
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