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†壹†
草木も眠る丑三つ刻――――地面を乱暴に穿った入り口からは想像できないほど、その施設は広く深く入り組んでいる。
この施設は、始めは権力者を祀るに相応しい内観をしているが、進むほどに岩だらけの洞窟へ変わり、そう思うと草が生い茂る空間が広がっていたり、大層デタラメ。気にするのも面倒になる構造をしている。
最も奇妙なのは、深く潜るほど頻繁に顔を出す、街のように巨大な生物の体躯。
その青白い体躯が壁面を這う深層、一人の女子が膝に手を付き、苦悶の表情を浮かべている。
寒月:「ハァ……ハァ…………」
ショートボブが似合う、眼鏡が知的な印象を誘う十八歳。
呼吸と共に上下する発育した巨乳に、特に後ろから眺めると、立体膨張した尻が袴を大層引き伸ばし、そういった場で無いにも関わらず男達の情欲を煽ってしまう。
しかしそれより目に付くのは、眼鏡の奥の大きな瞳――――それはまるで、彼女が人間では無いと示すように不気味に輝いている。
その瞳の光が薄らぐ中、気功家・寒月は、細切れになっても蠢く黒い物体に苦言を漏らす。
「なんて……ハァ…………しぶとい生物……ハァ…………驚異的……っ!」
雷帝の所以たる、その雷孔を出し尽くしてしまった。彼女は優秀な剣士ではあるが、肝心な所でガス欠になるキライがある。
花雪:「誰じゃ、この道にせよと申した不届き者は……ハズレじゃ」
同じく苦言を漏らす、モデルのようにスラリとした十八歳。
真っ白な肌に栗毛色の髪、片手を腰に見下すポーズが良く似合い、やはり乱れた呼吸が、体型に似つかわしくない巨乳を上下させている。そしてやはり、瞳の不気味な光が薄らぎ、元の黒色へ戻っていく。
花雪がイラ付いている理由は蠢く黒い生物にもあるが、お気に入りのユエが大層消耗しており、そうなった原因の方にも起因している。
炎暗剣:「詮索はよせ、そういう吊し上げは心が濁った者のする事だと思わないか?」
体格の良いイエンが諭すと、花雪が即座に反論する。
「全然思わぬ、お前じゃからな」
イエンの容姿はその体格に似合わず、まるで少年のようだ。それがコンプレックスなのか、必要以上に男らしく振る舞って見える。
左眼を眼帯で覆っているが、それもキャラ作りの一環にしか見えない。何故ならその眼帯には、それにはとても必要とは思えない、いかにも厨二心をくすぐりそうな『カッコイイマーク』が刺繍されているからだ。
魏圏:「急ぐぞ。宝漁りは帰りだ、白霊がまだ生きていれば良いが……」
纏りのない彼らを統率するリーダー。
額に傷があり、昨今では流行遅れのポニーテール、自称女の気持ちが判る男、ウェイである。
彼が言った『宝を漁るな』とは、もう一人のお転婆娘に向けられたものだが、その娘は指示を無視し、辺りを物色している。
他班に遅れるワケにはいかない――――よって、その娘は放って進む。
「この感じ……こっちだ。我が左眼がそう告げている……」
黒蛇が命を賭して守った通路、その十字路の一つをイエンは指し示した。
「他は全部上りじゃろうが!! 何が左眼じゃ、このクソ雑魚平民めッ!!」
ここは『宋』という国にある『長安』という街から、馬車で数時間ほど北東へ行った、小高い山の麓にある施設。おそらく千年以上前に作られ、千年後にはユネスコ遺産にも指定されるが、それは遺跡全体の二パーセントほどに過ぎない。
現在――――十一世紀末、西暦一〇九九年秋、草木も眠る丑三つ刻においては、まだそのほとんどが残存している。
だが、この『秦始皇帝陵埋没封鎖第一段階・白霊討伐作戦』という公共事業に参加する武侠達にとって、ここは『素晴らしい文化遺産』などという捉え方は到底されておらず、『最悪の地下要塞』という評価が下されている。
「おい、蹴るなよ、痛いぞ!」
「うるさい、遅れるな! 男が前じゃ!」
花雪はその地下要塞の深部へと、イエンを蹴り進める。
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