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そんなことを考えながらも、瞼を持ち上げている力もない。背中に広がっているシャッターを彷彿とさせる壁に体の重みを任せ、目を閉じる。ずるずるとそのまま脱力して、体は横に倒れてしまった。
天井に屋根はない。まだ雨が降りやむ様子もなかった。
―――未だに、彼を覆う空の涙は、収まることはない。
○○○
「びっくりしちゃったなあ……なんだろう」
かれこれ、十分ほど前のことだろうか。突然下の階から響いたシャッターを殴る音に、読書に耽っていた山宮言音は飛び上がって―――というよりも、椅子の上から転げ落ちる形で意識を書面か現実に引き戻し、上着を探しつつ、外の天気を確認し、外へ繋がる裏階段を降りた。
彼女の店と自宅であるプライベート空間は表からは繋がっておらず、裏口からでなければ店の前に出ることは出来ない。ひと手間はあるものの、店あプライベート空間を繋げるのは言音の個人的な好みにより、完全に分けられている。
「んー、やっぱり夜は冷えるなあ」
はあ、と息を手に吐き掛ければ、冷えた両手にわずかな温かさが感じられる。
年のころは十代後半いったところだろうか―――しかし、見た目の反して彼女の実年齢は二十代の半ばあたりだった。柳茶色の髪の毛は肩あたりで切られ、毛先が緩やかに巻かれている。上下が防寒素材で出来ている寝間着の上には、丈の長い上着を羽織っているものの、袖の先からは指先の顔しか出ていない。一応サンダルを履いてはいるものの、これから先、雨の降っている中では、どちらにしろ足先が濡れるのは目に見えている。
手元には言音お気に入りの薄い桃色の折り畳み傘がしっかりと握られていた。
今は春と夏の中間。
六月であり梅雨の季節でもある。天気は仕方のない話ではあるが、店先での喧嘩は壊れた壁の補修や、備品の再発注、へこんだシャッターの保全修理などでてんてこまいになるため、正直本音を言えば勘弁してほしいのが、言音の本音だった。
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