36人が本棚に入れています
本棚に追加
時を遡ること一時間。
偽国の魔導者達がなだれ込んできて地獄は騒乱に包まれた。
カガクラ・ラウンは考える。
その中で戦い、逃げ、守る為に彼らは駆け出していった。
既にこの会議室、日本地獄協会にとって名目上重要な臓器として扱われている役員がいるこの部屋には厳重な防衛が敷かれ始めている。
そしてまた一人。偽国とリドルセン・キャスケット、その関係から存在が濃厚と判断されたジョン・ディルセンから"娘"を守る為に、仲間がこの空間を出た。
カガクラ・ラウンは考える。部下や他部署の戦闘員に指示を出しながら、最悪の発想に至った。
「…………これで重要な施設すべてに人員が配置されたはず。あとは奴らを全員駆逐するだけだ」
そう言って、カガクラは杖をついた。一歩を、重い重い一歩を踏み出した。
「カガクラ執行部長、どこへ行かれるのですか?」
先ほどまで共に戦闘員へ指示出しを考え行っていた警備隊長が声を鋭くした。
執行部長と言えど死神。しかしただの死神ではなく死神長だ。脳みそを演じるのなら頭蓋の中にいろ、と。そう言いたげな声だ。
それに対し、カガクラは首を横に振った。
「執行部長じゃない。一人の男として、一人の友人に会いに行くんだ」
どういう意味かわかっていないかもしれない。いや、ついさっきまでの会議中の出来事で気がついているかもしれない。
どちらでもいい。どちらにせよ結果は変わらない。これは自分がやらなければならないことなのだ。
カガクラは一切の音をすべて背に、最悪の発想へ足を踏み出した。
戦闘の跡。彼らはうまくやっただろうか。
奴らが現れた場所。何故あの場所から湧いた?
何故彼女はあの時いなかった? 今どこにいる?
ここだ。死んでいった者の想い出を祀り、魂の良き輪廻を願う場所。
地獄協会想魂地群。
「やあ、ザーラ」
立ち並ぶ石の四角柱、その一つの前に彼女は立っていた。
ゆっくりと振り返り、そのブラウンの髪が生温い風に揺れた。
「ああ、まあ……あんたなら来るだろうね。ラウン、無駄足ご苦労様」
監獄長、ザーラ・ドルトイが闇を湛えて死神長を見据えた。
最初のコメントを投稿しよう!