闇話休題

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 「"何故"なんて今さら問う気はない」  カガクラは、ザーラの目の前に鎮座する石柱にちらりと目をやり心の中で頷いた。  「"間違ってる"なんて自覚はしてんだ。今さら言わないでおくれよ?」  ザーラのハスキーな声が虚ろに漂う。  「ただ、間違った世の中を変えなきゃいけないんだ。私も間違えなきゃやりようがなかったのさ」  「………………」  裏切りの監獄守、その言葉にカガクラは首を横に振って答えた。  周囲に立ち並ぶ石柱が寂しげに風に吹かれている。  「人が世界を作るんだ。世界が人を変えるんだよ。まずは我々が正しくなければいけないんだ」  間違えた世界だからこそ。  「人は歩みを止めてはならない。ザーラ、今まで積み重ねられてきた人々の歩みを否定するんじゃない」  「……………………」  沈黙。何を思っているのだろうか。失った家族か、それとも今まで歩んできた道のりか。  そのどちらも今のザーラには戻らない。  「…………ラウン、所詮は綺麗事さ。あんたの言葉も、私の言い訳も。…………あの坊やの理想も」  だけど、と。ザーラの声が曇天を仰ぐ。  「それでも仕方がないのさ。みんな人間なんだ。走り出したら止まりたくないんだよ」  空に点在する黒い雨雲を見ながら、彼女は無理やり口角を上げた。悲しげな笑みが口元に宿る。  「リドルセン・キャスケット……」  魔導によって家族を失った彼女が偽国と手を組むわけがない。ならば地獄に恨みがあるリドルセンだ。  「彼が君の賭けか」  カガクラの言い方に違和感を覚えたのか、ザーラは首を天から友人へ巡らせた。  「人は立ち止まることができる。少し休んで、誰かと一緒にゆっくり歩けばいい」  「…………何が言いたいんだい?」  「なに、難しいことじゃない」  次の瞬間。  空に広がっていた黒槍を白い魔力が覆った。  短かった。ほんの一瞬でそれは消えた。  反逆者達の執念の塊は消滅していた。  「……………………ッ」  唖然とするザーラに向かってカガクラが言う。  「少し休もう」  今も走り続けている愛弟子を想いながら、死神長は静かに監獄長へと歩み寄った。
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