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地獄。日本地獄協会。協会本部。
その中心に座するは地獄協会中央議館。死宮軸の住処であったその城は、今や地獄の大敵によって乗っ取られていた。
館の上部が黒い繭によって包まれている。流動する闇が漆黒の太陽となって協会を暗く照らしている。
その中心にいるのはもちろん。
「マーロウ」
その中に迷わず足を踏み入れたのは。
「やあ、リジィに古藤」
二人の悪霊。
もはやそこは部屋と言われても納得できない程の滅びに満たされていた。ただただ、灰と塵とそして寂寥感が渦巻いている。
「キャスケットとシーマンの遊びには飽きましたか?」
白い狐が問う。
影の中心で最も濃い影がブルブルと震えた。
「そんなことは無イ。だけどもっと楽シイことがあるからね」
赤髪の悪霊が呆れたようにため息をついた。
「その様子だと神の力も手に入れたみたいね。これで二つ目かしら?」
「ああ。流石ニ最後ノ断片ヲ食ベニ行ク余裕ハ無カッたよ」
だが、と。一瞬の鼓動を置いて滅亡が爆発した。
音すらも亡ぶ滅びの中心。無数の真黒の腕が外へ外へと向けて我を伸ばしていく。
「今適当ナ魂ヲ食ベヨう。嗚呼、スゴイな、魔導ガ溢レル」
同じ悪霊から見ても禍々しいとしか言えないエネルギーの集合体。今のマーロウはただの悪霊に非ず。ただの神にも非ず。
"悪神"とでも言えばいいのだろうか。リジィは久々に鳥肌の立つ感覚を首筋に思い出していた。
「さて、とりあえず私達の頭領が目覚めたからここに来たんだけど」
同じく隣で圧倒されている古藤へちらりと視線をやると、一寸遅れて彼もリジィを見て軽く頷いた。
「我々にすべきことがあるんでしょうかね」
軽く呆れと畏敬が混ざった笑いをこぼしながら彼は言う。
「…………嗚呼アあ嗚呼。奴ラはまだ完全ニハ死ンでない」
深淵の中から一対の深淵がこちらを覗いた。
「まだ安定シキッていないワタシでは、直接ココを叩カレるとそれだけで致命傷ダ」
それを聞き、リジィは即座に口角を上げた。
「わかったわ。任せてちょうだい」
古藤と視線を交わし、彼も頷く。
「行きましょうか、リジィ」
二体の悪霊が地獄の大気へ身を投げた。
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