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そんなキルコに対して、
「……………………」
青い眼の友人は言葉を見失う。
(なんで……)
「なんで……」
遂に境界も消えた。感情をせき止めるダムが壊れてしまった。
「なんで私は大丈夫だなんておもってたんだろ……」
濁流。
「なんでもっと安全な場所で保護してもらわなかったんだろ……」
「キルコ……」
時間と後悔が混ざり合い、決して戻らない悪夢となって奔流する。
「なんで協会の中にはマーロウが入ってこれないって思ってたんだろ……」
勝てない。会いたくない。怖い。恐い。
恐れが可能性を無視した。
「私が怖がったせいで……」
あの暗い部屋で今日の最悪の出来事は決まってしまっていた。
「私が弱かったせいで……」
理に逆らい、理を超えた存在。それを目にした時点で既に心は折られていた。
「私が……私、が…………私が……ぁ……ぁぁぁ……ぁぁぁぁぁ…………」
とめどなく。とめどなく。溶けた鉄のように熱い後悔が、目から、鼻から、そして喉の奥から。どろどろと溢れ続ける。
折れた。再び折れた。心と共にキルコの背中も折れる。
力なく揺れる前髪、その毛先から何かがぱらぱらと落ちた。
「……………………」
何かが。灰色の、否、漆黒の。何か。が、落ちた。
「…………………………っ!!!」
吐き出す物は何だろうか。朝食べた物は。壮介とのたった数時間前の記憶が、キルコの脳を無理やり揺らす。
喉を必死に絞って彼との想い出を押し止めた。
吐き出したくない。嫌だ。嫌だ。まだ縋っていたい。
「っ…………、……やだよ……」
絶望は酸の味がした。
「……………………」
かける言葉を吐き出せないジェーンの手からはキルコの背に対する躊躇いと、やはり絶望が感じられた。
そんな、暗い、暗い、悪夢の中。
ボソッ、と。
何かが崩れて、崩れて、崩れた。
闇に馴染んだキルコの黒目が無意識にその音を追う。
黒。
黒い手。
天井を蝕み人間を蝕み魂を蝕む暗黒の手。
次の瞬間、絶望は終わりを告げることはなかった。
数多の滅びの手が絶望を運んできた。
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