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色々と思い出の詰まった赤い傘は、結局、その後も出てくる事は無かった。
あの日、言った通り和久は私にとても素敵な花柄の傘を直ぐに買ってくれた。
雨の日にとても映える綺麗な花柄の傘を。
そして一年経った今も私はその傘をさして雨の中、和久を迎えに行く。
傘を持つ私の左手にはキラリと光る真新しいリングが輝いている。
いつもの事とはいえ、駅に着くと沢山の人が溢れていてちゃんと見つける事が出来るのか不安になる。
けれどーーー
「おっ、いたいた。サンキュッ。やっぱその傘目立って良いわ。お前が何処にいるか直ぐ分かる。」
そう言いながら、スッと私から傘を取りあげさしてくれる。
もちろん、和久が傘を持つ左手にもやはり私と同じリングが輝いている。
「ねぇ、そういう時はさぁ、うちの奥さんが一番綺麗だから何処にいても直ぐ分かる、って言うもんでしょ?」
傘を持つ和久の腕に手を絡めながら少し拗ねた風に言ってみる。
「はい、はい。確かに一番綺麗だったから直ぐに分かったー。」
「棒読みじゃん!和久だけ今夜はビール無しっ!」
「ま、マジで?勘弁してくれよぉ。楽しみにしてるのに。うちの奥さんが一番綺麗だなんて一々言わなくても分かるだろぉ?」
「今更言っても遅いんだからっ。」
「そこを何とかっ!ねっ?俺の世界一大事な可愛くて愛しい奥さん、お願い!」
「もぉ、調子いいなぁ。」
私達の笑い声が雨に混じってゆく。
雨の日がこんなにも楽しいなんて
雨の日がこんなにも輝いて見えるなんて
きっと花柄の傘のせいだけじゃないよね。
和久が側に居てくれるから
一つの傘に入る距離にいつだって
いてくれるから………
だよね?
気づけば雨は止んでいた。
だけどもう少しこのままで。
花柄の傘に隠れての
キスが終わるまでーーー
終
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