5人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話・予告編【30秒抜粋】
瞳瑠先輩はベアをためつすがめつ検めはじめた。
まずは全体を観察し、手で探る。
それから次に各所の匂いをくんくん嗅ぎ出す。
なんだこの人、警察犬か?
すると今度は、ベアの瞳をじっと見つめる。
穴が開きそうなほど覗き込む。
かと思うと、なぜだか突如、ベアの目玉にキスをした。
「えええっ、瞳瑠先輩、いきなり何して――」
「しー」
瞳瑠先輩は口の前で一本指を立て、素人は黙ってろと言わんばかりの表情だ。
やむなく雛太は口をつぐんで考える。
なぜ瞳瑠先輩はぬいぐるみにキスなんか……?
何かまっとうな理由があるのか……?
それとも、やっぱりただの変態か?
瞳瑠先輩は、鋭く裂かれた腹部や腕から溢れる綿を掻き出した。
見ようによっては、いささか猟奇的ともいえる行動だ。
更に瞳瑠先輩は布地を裏返す。
よく観察したかと思うと「そうか」とつぶやく。
そして何かひらめいたのだろうか。
人差し指を0の字を描くみたいにくるりと回すと、
「なるほど。分かった」
こんな短時間で何が分かったというのか。一人でフムフムうなずいた。
「さっきから何なの一人で。名探偵でも気取ってるんですか?」
「そんなものは気取っちゃいないよ。ただな、ベアの持ち主は《桜》に深い関係を持ったウチの学校の女子生徒で、性格は几帳面さに欠け、裁縫技術もさしてなく、更に色気づいていながらもおよそ十年一緒にいるベアへの愛情はきちんと有しており、とはいえ近頃ベアの贈り主と彼女がみなすガラス工芸家――おそらくスマホに電話番号の登録もされていない贈り主との間にいさかいが生じて、このような犯行に至ったことその他諸々が分かっただけだ」
――なななななんだ先輩、マジ名探偵……!?
最初のコメントを投稿しよう!