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妻にはどんな嘘も通じなかった。
どこかに嘘発見器でも取り付けられているのではなかろうかと思えるほど、その嘘の発見率は高かった。
ある日妻は寝ているのか?と尋ねてきた。
寝ている、と答えると、そんなにも忙しいのか、と問うて来る。
これはきっと嘘がバレているな、そんなことを思いながらも僕は妻に心配をかけさせたくなかったから嘘を重ねていた。
そうこうしている内に、妻は殆ど起きなくなってしまった。
ずっと眠っている彼女の姿を見ているだけで胸が苦しくなった。
僕は彼女のこんな姿を見るために医者になった訳じゃなかったのに。
無力さに押しつぶされそうになる。
そして、先日。
妻は眠ったまま、逝ってしまった。
苦しまず、安らかな寝顔だった。
僕は苦しくてたまらなかった。
妻は僕に1冊のノートを遺してくれていた。そこに書かれていたのは、少女のような僕への思いだった。
僕は君のその思いに、応えていただろうか?
不安にはしてなかっただろうか?
僕も君を愛しいと思っているよ。
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