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その日から私の入院生活が始まった。
朝は7時に起床し、8時には朝食。その後は自由に過ごせるが、点滴が邪魔で私は動くのが億劫になっていた。大体にして、身体がだるい。まるで昨日までとは全く違う。
入院した事実がこんなにも自分を病人扱いしてしまうなんて思いもしなかった。
「あかね、気分はどうだい?」
今日も夫が見舞いがてらに問診をしてくる。私は答えた。
「だるさがあるわ。だけど元気よ」
夫はそれを聞いて事務的にカルテに書き込むと、
「また仕事が終わったら顔を出すよ」
そう言って私の傍を離れていった。
入院生活は退屈極まりなく、窮屈で管理された生活は否応なしに自分が病人だと言うことを痛感させられるのだった。
なんだか、徐々に意識が薄れていく。
私は薄れる意識の中、1つ思い出したことがあった。
それは夫と付き合い始めた頃のこと。彼には1つ癖があることを思い出したのだった。
夫は嘘をつくのが下手だった。
嘘をつく時、必ず鼻の頭をかく癖。
あぁ、そうだった。
会話のない日々に慣れすぎて忘れていた。
夫の何気ない仕草、嘘をつくのが下手なところも愛していたことを。
そんなことを考えながら、私は意識を手放していくのだった。
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