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夕方、目覚めた私の目の前には私服姿に着替えた夫が待っていた。
「目覚めたかい?よく眠っていたね」
夫はぎこちない笑顔を浮かべて、私に言うのだった。
「ねぇ?私、病気なのかしら?」
「違うよ、ストレスと過労だから、じきに退院できるよ」
夫は鼻の頭をかきながら言う。
そう、これは嘘だ。
私には私にも知らされていない何かがあるのだろう。
「例え病気だとしても、僕が必ず君を治してあげるから」
真っ直ぐと私を見つめて言う彼に、嘘はなかった。
そっか、彼が私を治してくれるのだろう。なら良かった。私は安心する。この窮屈な入院生活もきっとすぐに終わるだろう。
「なんだか、また眠くなってきちゃったわ」
「うん、ゆっくり休むといいよ」
彼の声を聞きながら、また深い眠りの底へと落ちていくのだった。
その最中思い出すことがある。
初めてデートをした日のこと。
急患が入ってしまった彼は、大遅刻するのだ。彼の仕事に理解はあると思っていたが、何時間も音信不通のまま待たされた私は、若かったこともあり激怒する。そんな私に、彼はひたすらに平謝りを繰り返していたのだった。
ふふふ、おかしい。
必死な彼の姿が愛おしくて、私は最後には許すのだった。
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