おしどり夫婦

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 結婚して4年、僕たちには子供が出来なかった。  僕は仕事を理由に妻をないがしろにし過ぎていることに気付かないふりをしていた。  そんなある日、妻が倒れた。  難病の類だった。  必死に完治の方法を模索した。  大学の先生に教えを請うたりもした。  でも、打開策は見つからない。  妻は日に日に衰弱していっている。  ある日妻は言うのだった。 「ねぇ、覚えてる?」  それは初デートの記憶だったり、結婚式の記憶だったり。  あぁ、覚えてる。忘れない。  僕はそう答える。  そう、忘れてなどいない。ただ、記憶に蓋をしめていただけだった。  彼女の元気な頃の姿を思い起こす。  それは付き合い始めの頃の少し恥ずかしそうな顔だったり、怒った顔だったり。  でもいつ頃からだろうか、結婚して以降の妻の顔は思い出せない。  それだけ僕は、妻をほったらかしにしていたのだろうか。    今になってそれは後悔となって押し寄せてくるのだった。
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