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気が付けば、天道辰郎の視界は紅かった。
見たこともない紅の空が広がり、ぐるぐると回っている。前後の記憶がいまいち曖昧で、よく覚えていない。手足には力が入らず、起きているのか寝ているのかも分からない。
辰郎が最後に見たのは、巨大な目のような、二つのライトの光……。夢現の中で、辰郎は「あれ、車だったのかな……」などと呑気なことを考えていた。
そして徐々に、視界が遠退いていく。
湖の中にゆっくりと沈んでいくような浮遊感があり、どこか心地よささえ感じられた。
――……辰郎。辰郎――
ふと、彼を呼ぶ声が聞こえた。
(……誰?)
――辰郎、お前こんなとこでなんしよっとか?――
九州訛りの高齢男性の声に、辰郎はすぐにピーンと来た。
(……もしかして、じいちゃん?)
――おお、じいちゃんたい。久しぶりやなぁ――
(久しぶ……いやいや、じいちゃんとっくに死んでんじゃん。なんでいんのよ)
――そらこっちのセリフたい。お前なんね、死んだんね――
(死んだ? 俺が?)
――なんなお前、よくわかっとらんとか。そんなら、はよ戻らんか。こんままやと、迎えが来るばい――
(やけどじいちゃん、俺、よう分からんし。俺死んだん?)
なぜか九州弁になる辰郎。
――死にたいなら死なんね。どうするん?――
(いや死にたくないです)
辰郎は清々しいほど即答した。
――そんなら、はよ戻らんね……戻らんね……――
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