猫又、またまた

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猫又、またまた

 翌日――。  一晩休んだ辰郎の脳裏には、燿子の姿が浮かんでいた。  確かに彼女は、辛辣な言葉を向けた。しかし、そこには、何か背景があるのかもしれない。  そう考えると、辰郎は自分が吐いた言葉を後悔…………するわけもなかった。  辰郎は未だにイライラする。  どんな事情があるにしても、それでもムカつくものはムカつく。それは紛れもない事実であった。  自分から謝る? 冗談じゃねえ。  自分からすり寄る? まっぴらごめんだ。  自らの正当性を信じてやまない辰郎は、怒り浸透といった様子で、ごく普通に、当たり前に、日常生活に戻るのだった。  しかしながら、頭の片隅の、更なるごく一部の区間では、ちょっとだけ燿子のことが気になってはいた。元が糞真面目なせいなのか、玉藻にあそこまで言わせておいて放置していることに、後ろめたさを感じていた。  だが、燿子にあそこまでボロカスに言われてノコノコ手伝っては、男の恥。その後燿子がことある度に癇癪を起こし、辰郎が妥協するという悪循環になりかねない。  それは断固阻止したい辰郎は、燿子から直接謝られるor直接協力を依頼された場合のみ、手を貸してやらんこともないこともないこともないみたいな、若干微弱極小の妥協案を用意するのだった。
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