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夕飯を済ませ自分の部屋に戻る頃になっても、まだ父親は帰宅しなかった。独立し自分の事務所を構えてから、父親はさらに仕事ばかりをしている。家族のために、自分のプライドのために、父が懸命に働いていることをリュウスケは複雑な気持ちで受け止めていた。ベッドの上で横になり、リュウスケは平成女学園のサイトに掲載されているナギサの写真を眺めていた。5枚あるうちの3枚が制服を着ているナギサで、残り2枚はワンピースタイプの地味な色の水着を着ていた。カメラマンからの指示なのか、ナギサは笑顔でポーズを取っている。その姿は、あの時のホームで見かけたままだった。
「お兄ちゃん、もう寝た?」
部屋のドアをノックし、トモミの声が聞こえた。スマホの画面を閉じてベッドから降り、ドアを開けるとパジャマ姿の妹が立っていた。
「何?」
「ちょっと入っていい?」
リュウスケの返事も待たずに、トモミが部屋に入って来た。兄妹仲が悪いわけではなかったが、それぞれに別々の学校に通っていることもあり、面と向かって話しをするのは久しぶりだった。
ベッドの縁に腰掛けたトモミを見上げるようにリュウスケは床に座った。ひまわりの絵柄のパジャマが、髪を一本に束ねたトモミに似合っていた。
「お父さん、浮気しているかも……」
「は? なんだよいきなり!」
リュウスケの戸惑いをよそに、トモミはこんな話しを始めた。
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