2度目の春

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1年が365日ということは知っている。宮本リュウスケは、掲示板を見上げて考えていた。少なくとも、去年よりは自信があった。予備校の講師からも問題ないだろうと何度も告げられていたからだ。 「やった!」 「あったよ!」 リュウスケの戸惑いをよそに、同年代の若者が無邪気にはしゃいでいた。制服を着ている人も少なくない。リュウスケの去年はそうだった。掲示板の前にできた人ごみをリュウスケは無言で掻き分けながら外に出た。人ごみから外れると、その外側にも人は立っている。うつむく者や奥歯を噛み締めて掲示板を見上げる者、その表情を見れば結果は明らかだった。 リュウスケの父は、この大学で法律を学び弁護士となった。地方出身だったこともあり、リュウスケの教育にはとても熱心な男だ。母親は音大を出てピアニストとして活躍し、今は音大受験の学校で教えている。リュウスケには妹もいる。頭の良さではリュウスケも敵わない。多分、妹ならこの大学にもストレートで合格するだろうとリュウスケは思っている。 正門を出ると、急に日常が戻ってきた。昨日と変わらず浪人生のままのリュウスケ。きっと、明日も明後日も同じだった。まだ、父や母に連絡することはできない。「ダメだったよ」そう告げたときに父から「そうだったか」と言われるのが怖かった。 失敗した時、怒鳴られるととても落ち込む。しかし、怒鳴られると背景には、悔しさやもどかしさ、期待感も含まれているはずだ。多分、父は怒鳴ったりしない。ただ現実を静かに受け止めるだけだ。現役での受験に失敗した時と同じように。
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