2度目の春

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リュウスケは昨日までと同じ街の雑踏の中を歩いた。空を見上げることもなく、前を向くわけでもなく、うつむいたまま足を無意識に動かし続けた。しばらくして地下鉄の下り階段が現れる。リュウスケは谷底へと吸い込まれていくように感じながら、自分の意思で階段を一段ずつ降りていった。 驚くほどホームには人影がない。リュウスケのことを避けてどこかに逃げてしまっているかのように思えた。ポツンと空いたベンチに腰掛け、初めて視線をあげた。「現役合格〇〇人!」大手予備校の看板があった。 リュウスケは、勉強しかしたことがない。もちろん、テレビを観たり友どちと遊んだりもした。しかし勉強が中心にあって、そのまわりのオマケでしかなかった。もしも法学部に合格していたら、次は司法試験に臨むのだろう。その次は有名な法律事務所に身を置き、経験を積んで父のように独立することになる。リュウスケにとって、そんな青写真ができていて、そこから外れないように毎日を過ごすことがすべてなのだ。 「来年も受けるのかなぁ」 ふと、妹の存在を思い出した。そのうち両親は出来の悪いリュウスケに見切りをつけ、妹だけに期待するだろう。そして、妹もそんな期待を簡単にクリアし、リュウスケのことに触れなくなってしまうはずだ。 電車はまだ来なかった。代わりに、下り階段を一人の少女が降りて来た。
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