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3月の末、暖かくなったと言ってもまだ肌寒い。リュウスケは、グレーのパーカーを羽織り、胸もとまでしっかりとファスナーをあげた少女を見つめていた。太ももが半分以上露わになっていて、リュウスケは寒くないのかと気になった。階段を降りた少女がまっすぐ向かって来た。そして、1つ空けてリュウスケと同じベンチに腰を降ろした。もしかしたら、あの大学の受験生かもしれない。そして、春にはこの大学に通うことが決まったのかもしれない。リュウスケは側の少女から目が離せなかった。うつむいたままの少女に気づかれないように、Nと書かれたスニーカーからふくらはぎ、太ももと、盗み見ていた。
突然、アナウンスが流れて来た。リュウスケが家に帰る方向の電車だ。戸惑いながらも、足に力を入れて立ち上がった。ホームの黄色い線に近づき、電車が来るのを待っていた。電車がホームに滑り込み、リュウスケは目の前を流れる車内の様子を伺った。空いていた。座れそうだった。そして、家に帰って何と説明すれば良いのか不安が押し寄せた。
ふと、リュウスケは振り返りベンチを見た。少女はうつむいたまま動くことはなかった。寝ているようにも思えた。目の前のドアが開き、リュウスケが乗り込むのを待っていた。足を一歩ふむ出せば良かった。そうすれば電車は最寄駅まで連れて行ってくれる。しかし、リュウスケはドアが再び閉まるまで一歩も動くことはできなかった。
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