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電車から降りて来た人たちが階段を上っていくと、またホームはリュウスケと少女だけになった。ベンチの同じ場所に腰掛け、リュウスケは予備校の看板を眺めていた。
「大学生ですか?」
リュウスケは耳を疑いながら声の聞こえた方向に視線を動かした。大きな瞳の少女が、まっすぐに見つめていた。
「頭良いんですね!」
自分のことを大学生だと勘違いしていることはリュウスケも分かっていた。しかし、なんとなく誤解を否定することもできずに、「そんなことないですよ」と微笑んでいた。
「受験生じゃないの?」
「私、バカだから……」
謙虚というよりは、本気で少女は話しているように見えた。
「学生じゃないの?」
「養老院で働いているの」
「そうなんだ……」
リュウスケは養老院を知らない。そして、そのことを少女に訊ねることもできなかった。少女はナギサを名乗った。年齢はリュウスケの同じ18歳で、去年の春に上京したという。仕事は日勤と夜勤があり、不規則なのだと教えてくれた。
「今日は夜勤明けだから少し眠いの」
ナギサは目をこすりながら眠そうな表情を浮かべた。
「本当は看護師になりたかったの。でもバカだから試験に落ちて、今の場所に入ったの」
話しをしていくうちに、養老院といういう場所がどんなところなのかリュウスケにも分かってきた。身寄りのない老人たちが肩寄せ合って生きている場所。そこでナギサは、食事などの日常生活を介助していた。
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