平成女学園

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リュウスケは、ホームで1人になってナギサから渡された紙が名刺だったことに気がついた。淡い桜色の紙に「平成女学園 1年B組 ナギサ」と書いてある。リュウスケにはすぐにその名刺を理解することができなかった。養老院で働いていると教えてくれたナギサの説明と名刺の内容があまりに掛け離れていたからだ。 名刺に書かれている住所をスマホで検索した。そこがどんな場所で、ナギサがどんな人物なのかすぐに分かった。養老院で働いていることも、去年の春に上京したことも、もちろん名前だって嘘だろう。一瞬とはいえ、自分の中で淡い恋心が芽生えたことにリュウスケは胸が痛んだ。 騙されたという感情よりも、少しのためらいもなく微笑んだナギサに哀しみを感じた。秋葉原駅から歩いて数分の場所にあるナギサの学校は、確かに同じ電車で行くことができた。 リュウスケの所持金では、店に入ることはできない。コンビニで資金を調達することもできなくはなかった。会ってどうなる。これ以上、ナギサと何を話す意味がある。名刺を見つめながら、リュウスケはモヤモヤとした感情を振り払った。出会うべきではない相手だ。リュウスケはナギサのことを忘れようと決めた。
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