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教員が手にしたチョークが黒板を小気味良く滑ると、
生徒たちがノートに何事かを書き記す。
そんな生徒たちの中で一人。黒髪の女子生徒だけは、
皆と同じ様に黒板を見詰めるでも無く、またノートを取るでも無い。
彼女は、一人の男子生徒の後ろ姿をじっと見詰めるばかりだ。
ふと。私は自分が広げたノートへと視線を落とす。
其処には殆ど何も書かれていないノートが、私を見ている。
不味い。私はノートも取らずに、
また彼の後ろ姿をずっと眺めていたらしい。
私は慌てて、黒板に書かれた文字が消える前に
ノートへ書き写そうとする、が。
「(あぁー!待って~!行かないでー!)」
遅かった。黒板に書かれた文字や図形たちは、
先生が振るった無慈悲な一振りにより、皆その姿を消してしまう。
書き写せたのはほんの少しだけで。私はそれを見詰め。
「(うん、何とかなる。と思う。思いたい…。)」
素晴らしく半端な出来のノートに、“はぁ。”と
溜息が一つ零れ出てしまう。最近はこんな事がやたらと多い。
その原因は分かっている。
「(間違いなく彼の所為。)」
私は少しだけ恨めしく。彼の背を見詰めた。
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