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「……ナオキ、本気なん?」
「うん」
「ほんまに、ここでお別れして後悔せーへん?」
少し間があって、ナオキはまた、「うん」と言った。
「……わかった」
私は、何かに夢中になるとそれ以外見えなくなる。
今はそれがナオキだった。
ナオキがいたら、私が歌を真剣にやれないことをナオキは分かっている。
「……東京いってくる。でも――」
私は涙で滲む視界の中、大好きな人を見た。
「もし私が、いつか人前でライブができたとしたら、そのときは絶対見に来て」
ナオキが微笑む。
「うん、絶対いく」
これ以上ナオキの顔を見ていたら帰れない。
私は泣きながら方向を変え、歩き出した。
「ほんまにこれで良かったん?」
「……うん、これがレナの為や。協力してくれてありがとうな」
ナオキにとっての優しい嘘は、私にとっては何よりも悲しい嘘で。
私は初めて、ナオキの嘘に気付かないふりをした。
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