機械街の少年

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 むっとするような鉄さびの臭いに顔をしかめて、一人の少年が空を見上げた。この街の空はいつも暗い。耳鳴りのような金属音が前からも後ろからも聞こえる。それが普通だ。  そして、人間は眠らない、お腹が減らないというのも普通のことだった。工場を運営している人たちは皆寝ていない。ご飯を食べない。必要ないと言う。だから、眠くなる少年は異常で、お腹が減る少年は変な奴で、彼らから見たら「不良品」なのだそうだ。  少年はうつむき、深いため息をついた。それでも、工場で働けているだけでも幸運だと思う。この街では、「働かない」は罪だからだ。  街中(まちじゅう)に「不良品」はたくさんいる。その中でも、少年は「良い不良品」と呼ばれていた。数時間ほど寝て、ご飯を食べれば、また動くことが出来る。それに、彼らよりも手先が器用だから、小さな部品を組み立てられる。この街で唯一の、特別な取り柄だった。 (また眠くなってきた)  少年は大きな欠伸(あくび)をして、寝床のある場所へ向かう。工場と工場の間にある狭い道に足を踏み入れた。     
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