6人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
五〇番さんはぎぎぎと首を少年の方に向け、手に持たれた食べ物を見た。
「あぁ、コレは〝キャベツ〟というんだ」
「キャベツ?」
「うん。元々緑色なんダ。確か、人参と同じ野菜のハズ」
「へぇ……」少年は感心して唸り声を上げた。五〇番さんは博識だ。
「ときどき、〝レタス〝って野菜と見分けがつかなくナル。野菜って奥が深いネ」
などと話していると、パイプの向かい側に立つ二八番さんが怒鳴った。
「コラ! 私語は慎め! 仕事中ダ!」
ふたりは「はーい」と魔の抜けた返事をし、黙々と作業を再開した。
刻一刻と時間が過ぎる。ベルトコンベアが時間も一緒に運んでいるようだ。時間の上に、別の時間が乗っている。終わってしまっている時間。まだまだ余裕のある時間。
少年は終わってしまった時間を手に取り、足元の籠に入れる。籠はその場を動かない。時間が止まっているから。しかし、ひとたび少年が持ち上げれば、また時間が動き出す。
ぐぅっと、少年はのどの奥から深く軽い音が鳴るのを感じた。来てしまった。
少年はちょんちょんと五〇番さんの肩を叩いた。
「ごめん、ちょっと……」
五〇番さんは慣れたように言った。
「うん、いつものだネ。大丈夫。ちょっとくらい抜けても、作業が滞るわけじゃないカラ」
最初のコメントを投稿しよう!