白いブーケ

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「いらっしゃいませ」 「こんにちは。佳奈さん。今日は3つ、クラッチブーケ頼める?」 その客はお得意様の中でも特別の『憧れの君』だった。 いつも流行りの三つ揃えのスーツをパリッと着ていて、年のころは30手前、顔はイケメンとまではいわないが、柔和な笑顔が感じよく、つい会話に引き込まれてしまうタイプだ。今日は背広を着ずに、シャツにベストだけだったが、細身の体にベストがよく似合っていた。  もちろん外見ばかりが片思いの理由ではない。 「もうシャクヤクが咲いているんですね。」 「この濃いピンクのミニバラがアクセントになって全体を引き締めているんですね。」 と花の名前や咲く時期をよく知っているばかりでなく、私の腕の見せ所である花の選定、その意図にまで正確に把握してコメントを寄せてくれるのだ。 花束ならバラだろうが、ユリだろうがお構いなしに、きれいな一つの商品としか見てくれないお客が多い中、私は嬉しくてもっといいものを作ってみせようと頑張ってるうちに、いつしか恋心を抱くようになっていた。
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