少女と少年

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 晴れのち曇り。  目が痛くなるほどの青空に雲がかかったのは、昼のことだった。  想い人である少女がどこか暗い表情で教室を出て行くのを尻目に、少年は心の中でガッツポーズを決める。雨季に近いこの頃、このまま天気が崩れてくれれば、恵みの雨ももうすぐだ。  夏のアジサイのように静かに、緩やかに顔を綻ばせる彼女に想いを告げるのは、雨。初めて少女に笑い返された日から、それが少年のマニフェストだ。  あしたあめになあれ。  ひっくり返ったてるてる坊主に願いを込める。  曇りときどき雨。  今日はチャンスがあるかもしれない。雨だと断言されることもなく、曖昧な表現で告げられた予報に、少年は胸を躍らせる。  だが、靴箱の横にある傘立てに薄い青紫色の傘が凛と佇んでいるのを見て、誰に憚ることもなく溜め息を吐く。  少年の想い人である少女は、律儀にも毎回、わずかにでも雨が降りそうであれば傘を手放さない。予報が外れれば余計なお荷物であろう、降水確率10%の日にまで頑なに折り畳み傘に頼ろうとしないその習慣に、もしや親の形見なのかとすら穿ってしまったほどだ。  雨が降れば少女は傘を使うだろう。もし彼女に想い人がいれば、周囲の羨望を一身に集め、その傘共々に下校することだってあるかもしれない。  あしたあめにしておくれ。  今日も今日とて、ひっくり返ったてるてる坊主に願いを込める。
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