少女と少年

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 曇りのち雨。  今日は、少年は傘立てを見なかった。見なくてもわかる、どうせある。  雨が苦手なのか、普段から表情の少ない少女は溜め息を吐く回数が増えた。アジサイの花が咲き始めてから徐々に色付くように、少女の静かな笑顔が好きなのに。  アジサイの花言葉は決して人の羨むようなものではないと知っても、例えることをやめられない。  天は少年を微笑ましく見ていたようだ。希望が芽生えた。  雨が全ての音を打ち消し、新たな音を生み続ける静かな空間で、やっぱり朝傘立てを確認しておけばよかった、と後悔が滲む。  あめよあめよ、やまないでくれ。  想い人が、目の前から去ってしまわぬように。  ひっくり返ったてるてる坊主の聞いた願いは、天にも届く。淡い少女の恋心を無視して、雨は勢いを弱めず降り続く。  少年は、晴れの日も曇りの日もときどき雨の日も肌身離さなかった黒い折り畳み傘を、通学カバンから取り出した。  呆然と空からの恵みを眺めている少女の視線を遮るように、折り畳み傘を開いたときだった。  ーー少女と少年の目の前に、爽やかな青空が広がった。
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