第一話

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「ゆーきくんってぇー、しょーじきつまんないよねぇー」 その言葉が酷く胸に鋭い針のように突き刺さった。 つまんない、確かにデートしてもすぐに話題が途切れたり雰囲気がある場所なんて行かなかった。 でもそれは、緊張したりして上手くいかなかっただけだ。 誰かと恋人同士になるのが初めてで、どうすれば良いのか分からない。 それだけでつまんないのか?高校生のデートとかこんなもんじゃないのか? 初めてなりにはりきって本とか読んでデートスポットとか頑張ったのに… 今日はキスまでいけるようにと頑張っていつも以上に歯磨きをしたのに会って早々別れ話とか… 今朝までの浮かれていた気持ちが一瞬で消えてしまった。 楽しかったのは、俺だけだったんだ。 なにがいけなかったんだろう、女の子の気持ちが分からない。 日曜日で家族連れやカップルなどで賑わう駅前の騒がしい音が一瞬で聞こえなくなった。 それほど衝撃を受けていた…俺の恋の花はこの時枯れて散ってしまった。 出会いも恋も別れも一瞬の出来事のように感じた。 これが人を愛する苦しみなのかな。 出会いもあれば別れもある。 「ゆーきくんってぇ、顔はいいのに手を繋ぐだけで赤くなって子供みたいなんだもん、わたしぃー大人の恋がしたいなー」 子供…高校生って子供じゃないの?必死に小遣い貯めてちょっと高いレストランを予約したりして見栄を張っていたから? 大人の恋って何?キスもしてなかったから?キスのタイミングが分からなくて今日まで清い関係だったけど… 大切にしたい、そう思っていた気持ちが裏目に出てしまったのか。 頭がぐるぐるして身体の中にあるものが上がってくるような気持ち悪さを感じた。 遠ざかる彼女…いや、元カノの背中をボーッと眺める事しか出来なかった。 うっ…本当に吐きそう、口元を押さえて何処か楽になれそうな場所を探して周りを見渡す。 周りは俺の事を一瞬だけ見て、何事もなかったかのように日常に戻る。 俺がいるところは駅の入り口で探せばトイレならすぐに見つかると思っていた。 そこだけ人気がなく周りから切り離されたようにぽつんとある公衆トイレに駆け込んだ。 駅前のトイレにしては綺麗に掃除されていてそこがせめてもの救いだ。 個室のドアに寄りかかりながら、中に滑り込むようにして入った。 いくつかあるトイレの中で滅多に人が利用しないトイレに入ったから吐いてる人が居ても他に人が入ってくる確率が低そうだから大丈夫だろう。 個室のドアを開けてうずくまり、すぐに終わらそうと便器の中を覗き込む。 朝から緊張して何も食べてないからか吐きたいのに何も吐けず胃の中でぐるぐるしている不快な気分になっただけだった。 目の前が霞んで見える、本格的にやばいのかもしれない。 フラれてしまったが恋愛経験を積んだって思えばいいのだろうが、元カノの言った通りまだ子供…簡単に割りきれなかった。 「あんた、大丈夫か?」 「…はぁ……へ?」 俺ではない人の声が聞こえて驚いて、身体 をびくつかせる。
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