第一話

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女子高生達がはしゃぐ声を遠くで聞き歩き出した。 真ん中で歌っている金髪の男の笑顔に吐き気がする。 あれは俺じゃない、笑顔の仮面を被ったなにかだ。 同じ顔をしているのに、俺という人格を否定してくる。 あんな偽物に皆騙されて、俺自身が騙しているんだけどな。 今はドラマや映画にたまに出るが本業はアイドル歌手だ。 STAR RAIN…俺が所属しているグループの名前だ。 毎年の年末に行われるトップアイドルを決めるアイドル総選挙。 数々のアイドル達が生まれているこの世の中で僅か一年でトップになったグループがSTAR RAINだ。 俺はその中でキラキラした王子様系のイメージで売っている。 見た目通りの、誰の期待も裏切らない完璧な設定だ。 芸能人の中でも憧れる者や嫉妬する者など沢山いる。 そりゃあ結成僅か一年でトップになればそうなるか。 とはいえあまりそういうのに興味がなくてオリコン一位おめでとうとか言われても関心がなかった。 でも仮面の俺は無理矢理笑顔を作って理想を演じた。 本当の俺は、そんなのどうでもいいと吐き捨てたかった。 駅前は人が多すぎる、早く移動しようと歩いていた時…誰かに肩がぶつかった。 「いってぇ…」 俺の事が見えていないのか、振り向きすらしない。 痛みは大した事なかったが、不機嫌に舌打ちする。 素の俺がコレだから、俺を知ったら誰もが幻滅するだろう。 でも、そう簡単に素は変えられない…役なら簡単に変えられるのにな。 最近の奴はぶつかって謝りもしないのか…俺も最近の奴だけど… サングラスをしているから相手も顔なんて分からないだろうと思ってんのかと睨む。 しかしぶつかった奴はふらふらと何処かに歩いていった。 その姿を見ると、だんだん怒りがおさまってきた。 まるでゾンビ映画のゾンビみたいに変な動きをしている。 …なんだあれ、遠目から見てもヤバそうだけど大丈夫か?
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