第一話

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「それ飲んでいいよ、少しは楽になる」 頭の上から優しい声が聞こえた、楽に……本当にそうなのかな。 しかし今は無気力中なので上手くペットボトルのキャップを開ける力もなくつるつると滑る。 俺はペットボトルの中身でさえ飲めないダメ人間なんだな、ははは… 謎の人物にペットボトルを取られてカチッと開ける音がした。 なんとここまで優しい人がいるとは、神ですか?…俺の幻覚じゃないよね? 早く萎びた野菜に潤いが欲しい、ペットボトルが欲しくて両手を広げた。 「ちょうだい…あふっ、んっ」 強請るように口を開いたらなにか柔らかいもので塞がれた。 熱い口内に冷たい水が流し込まれた、火照っていた体がだんだん落ち着いてくる。 なんだこれ、ふわふわする、気持ちいい、もっと…もっと… 舌を撫でられ絡み合う、唇が離れたと思ったらまた塞がれ水を流し込む。 あ、俺のファーストキス……まぁいいか…どうせフラれたんだし… 何度か続けられて、途中からはもっと水分が欲しくて自分からがっついてしまった。 キスってこんなに気持ちいいんだな、知らなかった。 長く続いた気がしたキスはスマホのバイブ音で呆気なく終わった。 舌打ちが聞こえる、俺は唇を吸われ過ぎて別の意味で萎びていた。 電話が来たのだろう、「後は自分で飲めるだろ」と言われ急いでトイレから出ていった。 今度はちゃんと力が入る指先でキャップを開けて言われた通り水分補給をしてからトイレから出た。 お礼を言いたかった、でももうそこには誰もいなかった。 涙でぼやけた視界から見たその人の顔も覚えていなくて顔も分からないんじゃ探せないとすぐに諦めた。 正直どうやって帰ったのか覚えてないし、トイレでの出来事も日が経つと徐々に忘れていった。 ただ一つだけ、世の中には神のような優しい人がいるって事だけはずっと忘れる事はなかった。 ありがとう親切な神様、俺…もう一度頑張ってみるよ!
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