第一話

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自販機から水が入ったペットボトルを取り出してトイレに戻る。 別に見ていられなかっただけだ…さっさと渡して帰ろう、そう思っていた。 「ははっ、向こうは遊びでもこっちは本気だったっての!…うっ、くっ…」 「………」 足を止めて、個室をまた覗き込むとそんな声が聞こえた。 自暴自棄になっているような声に混じって、泣いているような声も聞こえる。 女にフラれたのか、もしかしてそれで吐いたとか? …なんだそれ、馬鹿だなと呆れてため息を吐く。 俺には理解できない、フラれたぐらいで吐くとか…どんだけ心が弱いんだよ。 恋愛をしたいと思っていないから、そんな悩みを抱えているのは馬鹿らしく感じた。 男の前に立つ、まだ泣いてるのか……男なんだからそんな事くらいでメソメソ泣く… 「っ!?」 さっきは背中を向いていて、顔をろくに見ていなかった。 今は正面を向いていて、壁に寄りかかっている。 結構綺麗な顔をしていたんだな、気付かなかった。 その顔なら、いくらでも恋愛出来そうなものなのに… 涙がキラキラ光って触ったら消えそうに思えた。 いろんな芸能人を見てきたが、ここまで惹かれるのはなんでだろう。 男に思うような感想じゃないなと苦笑いしているが、目を逸らせなかった。 さっきはすぐに帰ろうと思ってたのに、何だかほっとけない。
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