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もう男はすっかり顔色が良くなっていて、放っておいても大丈夫だろう。
「後は自分で飲めるだろ」
本当は全部飲ませたかったが、さすがに他の人が来そうだ。
ペットボトルを渡して、そう言うと男は頷いた。
もう一度会ったらそれは運命、だから電話番号は交換しないでおこう。
マスクを直しトイレを出てマネージャーの電話に出た。
事務所に来いという連絡があり、俺がいる場所までマネージャーが車で迎えに来た。
誰かに芸能人だと気付かれる前に、急いで車に乗り込む。
気弱そうだが怒るとめちゃくちゃ怖いマネージャーが笑顔だ………何したっけ俺。
事務所の会議室に行くと父の秘書の男が紙袋を持って待っていた。
父は仕事で出かけているのか、そこにはいなかった。
仕事の話か?今日はせっかくの久々の休暇だったのに。
「今日は休みじゃなかったっけ?」
「さっき社長から電話がありまして、緋色様が一般の学校に通うから変装グッズを買ってこいと言われまして」
「……それがこれ?」
「はい」
ピクリとも変わらない無表情の秘書から紙袋を受け取り、中身を漁る。
いつもの変装は帽子にサングラスだけだから、学校では使えない。
それに、ちょっとした事でバレない変装が理想的だ。
中には髪が多いもっさいかつらが一つだけ入っていた。
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