7037人が本棚に入れています
本棚に追加
/805ページ
俺にすがりついているような顔をしていたからだろうか。
俺にこんな優しさがあるなんて、自分でも驚きだ。
ペットボトルを男の頬に当てるとうっとりした顔をした。
……なんだその顔、変な気持ちになるだろ…やめろ。
「それ飲んでいいよ、少しは楽になる」
なにがあったのか分からないが、口の中を綺麗にした方がいい。
男のために買ってきたから、受け取らないと俺が困る。
ペットボトルを受け取ったのを見てから、手を離した。
早くこの場所から出よう、じゃないと俺の今まで被っていた仮面が壊れそうで…怖かった。
帰ろうと一歩下がると男はペットボトルのキャップに苦戦していた。
…あー…ったく、なんで俺がここまで面倒見なきゃならないんだよ。
男からペットボトルを奪い取り、キャップを開ける。
ペットボトルを渡そうとしたら男は口を開けていた。
自分で飲めと言いたかったが、目線が口元に釘付けになった。
赤い舌が妖艶に動いていて、なんかイライラしてきた。
……なんだよ、誘ってんのか?男に何考えているのか…俺自身も変だ。
最近仕事のし過ぎか、俺の思考もバグってるな。
吐いた後とか男とか、もう何も考えられなかった。
俺のキラキラ輝いていた偽りの仮面にヒビが入る音がした。
ずっと、剥がれなかったのにこんなに簡単になくなるものなんだと思った。
しかも初対面の男に無自覚でだ、俺の今までってなんだったんだろう。
マスクをずらして、無我夢中で男とキスをした。
キスなんてした事なかったが、こんなに理性がなくなるものなんだな。
ペットボトルの水を口移しで飲ませるともっととねだるように俺の舌に絡み付いてくる。
それが何だか可愛くてずっとこうしていたいと思っていた。
しかしそれは俺のスマホの着信音で終わった。
良いところだったのにと舌打ちしてスマホの画面を見たらマネージャーの名前があった。
面倒だが、無視すると後で更に面倒な事になるな。
最初のコメントを投稿しよう!