夕暮れに蜂蜜を垂らす係にも分厚い焼きたてホットケーキを

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 もし、何にでもなれるとしても、それでどうなるというのだろう。誰も気が付くことは無い。私が、花や風、そして…“幽霊”になったとしても。 「で、そういうオマエは何になるんだ」  額の汗を拭いつつ、仲間の内の1人が、あの少年に問い返す。彼は、ブランコを囲う柵に寄り掛かりながら――私の方を、見た。 「おれは…。おれは、『5時のチャイムを遅らせる神様』」  大袈裟なほど張り上げた声。ゆっくりと紡がれた言葉。  その瞬間、確かに私の世界は廻った。  真っ直ぐに、私の眼と心に向かって届けられたものだと、気が付いたから。   心臓がドクドクと鳴っていた。蝉しぐれ、木々の揺れる音、7月の午後の日差し。私の中で、カーテンが開かれる。窓の外に手を伸ばす。  彼は仲間の方へ向き直り、続けて大声で語り出す。 「ほら、5時になってチャイムが鳴ってもさ、ちょっと遅れて、向こうの方からまたチャイムが聞こえてくる時、あるじゃん。あれってさ、多分、神様の中に、そういう係がいるんだよ。だからおれは、それになりたい。遅れがデカければデカいほど、5時になるのも遅れるから、ギリギリまでさ、家に帰らなくって済むんだ――」  身体中が熱くて、涙が後から後から零れて、息苦しいのに心地良かった。それ以降の会話を、私は、上手く聞き取ることが出来なかった。  そうだ。私はずっと、17時の鐘が怖かったのだ。幼い頃から、あの鐘の音が憎かった。私を母へと連れ戻す、自由を奪う鐘の音が。  そして、それを誰かに知ってほしかった。「助けてくれ」とまでは言わない。ただ、私と、私の苦しみを、誰かに見つけてもらいたかった。それで充分だったから。  やっと判った、気が付いた。この時、私は初めて悔しさや、歓び、乾きを“感じた”。生きることを取り戻したのだ。  私は立ち上がると、乱暴に涙を拭った。誰もこちらを見ていなかったが、声には出さず「ありがとう」と彼に告げた。  時刻は16時15分。  私は確かな足取りで、公園の外へと歩き出した。“家”に帰る為に。
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