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第三章 うまい話には落ちがある
「お客様チェックアウトの時間でございます」
その声で、達也は眼を覚ました。声のする方に顔を向けると、目深に帽子を被ったボーイ姿の男性が立っていた。
「こちらが、当、隠れ家のご宿泊代になります」
達也は、指し出された金額を見て、驚愕した。
盗んだ金の九割にあたる九千万円が記されていた。
「こんな法外な料金、払えるか」
「弱りましたね、警察、呼びましょうか」
「警察。待てよ、確か、夜逃げした一家も居たよな。あいつらも払ったのか」
「いえ、それは・・・」
ボーイは口ごもった。
「誰も払っちゃいないのだろ。取れるとこからだけ取る気か、お前ら」
「いや、払えない人達は、この通り」
ボーイが出した小瓶には、眼球が入っていた。
「良平!」
その光景に驚愕した達也は、良平の姿を眼で追ったが、姿は何処にもなかった。
「お客様は初めから御一人でしたよ」
料金を受け取ったボーイは、オーナーの部屋を訪れた。
女主人は、ボーイからお金を受け取った。
「今日は大漁だったね、雅子」
「それにしても、あんたは天才ね。今や世界中が高齢社会、どこの国も法人税を引き上げ、企業は高額税に苦しんでいる。そこで、企業と結託して、金を盗んで、損金扱い。企業もあたしらもハッピー、ハッピー」
「それより、姐さんの夜逃げした一家の演出もたいしたものだよ。じゃあ、俺、ネカフェで次のカモ見つけて来るわ」
帽子を被り直した良平は、ニヤリとほくそ笑んだ。
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