雨模様の彼女。

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「これは……」  今朝は寝坊して、いつもより遅く来てしまった。  靴箱を開けたときに、ぽろっと落ちた一枚の紙。  拾い上げる。  そこには、書きなぐったような女の子の文字で、こう書いてあった。 『ブスは日陰に隠れてろ!』  いつかは来ると思っていたが。  私が少し遅れてきた途端に、置かれた紙。  きっと、犯人はタイミングを図っていたのだろう。  ずいぶんと気弱な犯人さんだ。  それに、この内容。  一般的な価値観に照らせば、私の容姿は平均を上回るくらいには優れているという自負があるのでどうも思わない。  日陰に隠れるというが、表現が曖昧だ。  何を定義として日陰というのだろう。目立たないという意味なら、私は十分日陰にいると思う。  こんな紙で傷つくと思ったら大間違いだ。  大体、打撃を与えたいなら、ここにある上履きでも捨てられた方がよっぽど困る。  とは思ったものの、いい気はしないのもまた事実。 「何つっ立ってんの?」  後ろから声を掛けられる。  最近聞きなれた声。悠生(はるき)だ。  どうやら、私の登校時間がずれたことで、悠生の登校時間と被ったようだ。 「それは……」  私の手元を見て、戸惑ったような困ったような、そんなため息をついた。 「それ、俺のせいだな」 「そうだね」  元々こんなもの全く気にしていないが、悠生に責任を感じられたらかわいそうだ。  いつも通りの話し方になるように意識しながらしゃべった。 「そうだね……って。普通そこはやんわりと否定するとこじゃねぇの?」 「そうなの?普通が分かるほど経験が?」 「いや、初めてだけど」 「「……」」  何となく顔を見合わせ、それからくすっと笑った。  大丈夫。いつも通りだ。 「誰だろうね?」 「心当たりがあり過ぎてわからないな。見つけたらシメとく」 「何するの……?」 「その目はなんだその目は。手はださねぇよ?ちょっと言うだけだし」
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