雨模様の彼女。

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 初めて会ったのは、受験当日。  みんなのカリカリとした緊張感で張りつめられた教室を、早すぎる一本の桜が嘲笑っているような。  そんな不思議な空間だった。  最後に精神統一に入る人が多い中、そいつだけは違った。 (……何やってんだ、コイツ)  俺の隣の席の女。  カチャカチャと音をたてて筆箱を漁っている。  机の上を覗くと、そこにはシャーペンと定規だけ。 (消しゴムでも忘れたのか?)  その気の弱そうな女の子は顔を真っ青にしていて、可哀想に思えてくる。 「……これ、貸してやるよ」  放っておいても良かったが、あまりあたふたされても気が散る。  そして不幸なことに、俺は消しゴムの予備を持っていた。文房具は無くしやすいからと、いつも二つずつ用意していたことが(あだ)になった。  助けられるのに助けないのは後々気分が悪い。 「ありがとうございます……」  そんな義務的意識でやったことだったのだが、相手はそうは思わない。  まるで救いの神でも見たかのようにきらきらとした目で見つめてくる。  ……いささか居心地が悪かった。
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