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「ぐすっ……お兄ちゃん、お母さんが迷子になっちゃったの」
歩調を緩めたところでこれだ。
まだ5歳くらいの幼女は、俺のシャツの裾をしっかり掴んで離さない。
「俺、急いでるんだけど」
「……?」
「お母さんはさがせないってこと」
「うわぁーん!」
「うわっ、やめ、さがす、一緒にさがしてやるから!」
女の武器(?)使うの早すぎだろ。
とっさに口を塞いだけど、周りは完全に不審者を見る目になっている。
これだから女と子供は苦手なんだ。
「花菜ちゃんのお母さんはいませんかぁー?」
「いませんかぁ♪」
手を繋いで公園の周りを歩く。
さっき泣いていたのはなんだったのか、幼女はすっかり高い声を弾ませて上機嫌だ。・
「あのっ!」
向こうから息を切らして走って来る女の人がいる。
「あっ、お母さん!」
幼女が手を離して、女の人の方へ駆けていく。
相当探し回ったのだろう。明らかな安堵の色を浮かべていた。
感動の再会を終えると、こちらに目を向けた。
あ、しまった。お暇するタイミングを逃した。
「私は花菜の母親です。花菜がお世話になりまして、本当にありがとうございました」
「いえ……」
「何かお礼を出来れば」
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