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俺は目を瞬かせた。お姉さんは未だに、じっと俺を見つめている。――あぁ、この人。お節介はお節介でも、面倒くさいタイプのお節介だ。俺は首を振った。
「そんなことないよ。俺が泣いてると思って、傘差してくれたの?」
「えぇ」
「優しいね」
お姉さんは、まだ俺の目をじっと見つめている。その目に、なんだか居心地が悪くなってくる。目を逸らさないこの人の目が、見透かすようなこの人の目が、なんだか苦手だ。お姉さんがまた口を開く。
「泣いたっていいのに」
「え?」
お姉さんは至極当然のように言った。
「悲しいなら、泣いたっていいのに」
……お姉さんは相変わらず、真っ直ぐ俺を見てる。当たり前のことを、当たり前のような顔をして言う。そして、そのお節介が俺にはひどく鬱陶しい。
「それ、余計なお世話でしょ?」
鼻で笑えば、お姉さんは一瞬苛立ちを見せる。俺は構わず煽った。
「俺のこと泣かせたいの?お姉さん」
「そういうわけじゃない」
「じゃ、どういうわけ?」
俺は傘を握るお姉さんの手を引き寄せた。至近距離で、その瞳を覗き込む。
「……それとも、お姉さんがベッドでなかせてくれる?」
艶っぽく囁けば、お姉さんが目を見開く。――ほら、そんなつもりないんじゃん。お節介も大概にしときなよ。悪い男に連れ込まれたって知らないよ?俺とお姉さんの距離は、今にもキス出来そうなほど近い。でもお姉さんは、視線を逸らさなかった。
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