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視線を上げないお姉さんの横顔を眺めた。その顔に、眼鏡はかかっていない。眼鏡は働いてる時だけなんだな。俺は深くソファーに身を預ける。お姉さんの指がパラリとページをめくる。じっと俺を見ていたその目は俺を見ていない。だから、こっちを向かせたくなった。
「フラれた」
その瞬間、お姉さんは顔を上げ、目を真ん丸にした。かなり驚いてる顔。
「昨日、ついにフラれた」
俺は同じ言葉を繰り返した。
ラブホテルは、入室したら自動でロックがかかるタイプの部屋が多い。でもここは違う。鍵を貰って入るから、施錠も開錠も自分たちでできる。だから、連れと一緒に入室しなくてもいい。相手と時間をずらして入れる。
……つまり、一緒にラブホテルに入っているところを見られるのがまずい相手と、俺は利用している。いや、利用していた。そしてお姉さんは、そのことに気づいてた。現にお姉さんが目を丸くしたのは、ほんの一瞬だったから。お姉さんは、真っ直ぐ俺を見ている。俺に同情するような表情をするわけでもなく、じっと俺を見ている。
全然本気なんかじゃなかった。相手が火遊びしてるだけなのも知ってたし、俺もそのつもりで遊んでた。いい思いもさせてもらった。でも、もう会わないと言われた瞬間、身体の何かがなくなった感覚がした。ずるずるとこの関係が続くんだと思ってた。たまに会って、ベッドの上だけは恋人同士のような関係が続くんだと思ってた。――だけど、それは幻だった。
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