5人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は身を起こして、お姉さんを見つめる。お姉さんはやっぱり視線を逸らさない。
『泣いてた?』とお姉さんは聞いてきたけど、泣いてなんかない。だって、別に本気じゃなかったから。悲しくなんてない。
でも、胸の奥がひりひりする。指先に力が入らない。頭が上手く回らない。深酒し過ぎたかな。俺は、お姉さんの頬に手を添える。
「……慰めて。お姉さん」
お姉さんは困った顔をするわけでも、迷惑そうな顔をするわけでもなく、ただ俺を見つめ返した。さっきは嫌だったのに、なんでだろう。今はこの瞳に、ひどく安心する。
ふいにお姉さんが俺に手を伸ばし、頭を撫でた。俺は目を瞬かせる。
「えっと……?」
「偉かったね」
その台詞に俺は目を剥いた。お姉さんは俺に優しく微笑む。
「泣かなかったの、偉いと思う」
何も言えずに、俺は固まった。なんてガキっぽい慰め方。期待したのと全然違う。――でも、そうか。俺、偉かったのか。俺はお姉さんの膝を借りて横になる。
「ちょっと――!」
「偉かった?」
文句を言おうとしたお姉さんは、俺の質問に口を閉ざす。俺は腕で視界を覆って、お姉さんがどんな顔をしているかは分からない。でも、お姉さんは俺がどんな顔をしてるか、分かってるみたいだった。また、俺の頭を優しく撫でる。
「偉いと思うよ。私はそう思う」
「そう」
頭撫でられるなんて、それこそガキの時以来だ。なんだかムカつくのに、でもその手を止めてほしくないとも思う。
ゆっくり息を吐いた。目頭が熱い。でも、抗う気にはなれなかった。俺は目を閉じる。
……お姉さんはしばらくの間、何も言わずに俺の頭を撫でてくれていた。
最初のコメントを投稿しよう!