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次はどこから来る?
秦盟と薊花は、あたりに目を走らせる。
道の向こうへと、すばやく姿を消した影が、同じ場所から来る可能性は低いだろう。
薊花が、挿していた簪に手を伸ばす。
花簪。
だがそれは、決して若い娘が好みそうな華やかなものではない。
がくばかり大きくて、黒っぽい紫の花びらがついた花。
どこにでもある薊の花。夏になれば人の背を超えるほどすっくりとのび、誰にはばかることなく、まっすぐに天をめざす、強い草花。
秦盟は、はっとした。
(あのときの……)
手に握られた、花の一枝に見えたものは、黒い刃の剣と化していた。
と、右手でコツッという音がした。
秦盟の注意がそちらに向く。
その瞬間に、次が来た。
習っていたはずだ。小石で音を立てて注意をそらす、簡単な陽動に、どうしてこうも簡単に引っかかってしまうのだろう。
左から、風のような勢いで何かが近づき、カツッという音を立てて、飛びすさった。
剣と剣のぶつかり合う音。
薊花が相手の剣を受けたのであった。
「離れていて」
薊花が小声で、短く、秦盟に告げた。
秦盟は尻餅をついた形のまま、道にそって後退した。
すでに黄昏時だ。目の前で、薊花が相手に対峙しているのだが、秦盟の目には、二人の動きがさっぱり見えない。
ただ、襲撃者の黒っぽい影と薊花の緑がかった服の色が近づいたり離れたり、間合いをはかったり、走ったり、そしてときに、剣と剣がぶつかり合う音が響く。
双方ともに、相当な腕なのだということはわかる。
戦っているうちに興が乗っていくようで、相手から放たれる強い気迫が、ますます強くなっていく。
このままでは、危ない。
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