第五章 暗躍

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◇  このままでは薊花が危ない。 「誰か!」  秦盟は、声を上げた。 「人殺しだ!」  恥じる必要など無い。自分が勝てない相手なら、助けを求めるのだ。  助けを求めることも、逃げることも、兵法の内だ。 「助けてくれ!」  できる限りの大声をあげる。  今は他に人がいないようだが、ここは往来だ。  人を呼ぶに限る。  もし、自分にまだ監視がついているのだとしたら、必ず助けは来るはずだ。  逆に来なければ、監視がつかなくなっているのだろう。  はたして。  道を離れた草むらの先で、合図の太鼓が鳴った。  遠くで人声がひびき、ざわめきが広がり、道のはるかには土煙が立つ。 「こっちだー!」  秦盟は、手を大きく振る。  チッ、と舌打ちをして、男が高く跳躍し、道の脇の草むらを飛び越えて黒い影と消えた。  秦盟は、薊花のほうを振り向いた。  上気した頬。だが、すでに剣は持っておらず、まとめられた髪に薊の花の簪が挿してあった。
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