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◇
このままでは薊花が危ない。
「誰か!」
秦盟は、声を上げた。
「人殺しだ!」
恥じる必要など無い。自分が勝てない相手なら、助けを求めるのだ。
助けを求めることも、逃げることも、兵法の内だ。
「助けてくれ!」
できる限りの大声をあげる。
今は他に人がいないようだが、ここは往来だ。
人を呼ぶに限る。
もし、自分にまだ監視がついているのだとしたら、必ず助けは来るはずだ。
逆に来なければ、監視がつかなくなっているのだろう。
はたして。
道を離れた草むらの先で、合図の太鼓が鳴った。
遠くで人声がひびき、ざわめきが広がり、道のはるかには土煙が立つ。
「こっちだー!」
秦盟は、手を大きく振る。
チッ、と舌打ちをして、男が高く跳躍し、道の脇の草むらを飛び越えて黒い影と消えた。
秦盟は、薊花のほうを振り向いた。
上気した頬。だが、すでに剣は持っておらず、まとめられた髪に薊の花の簪が挿してあった。
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