第五章 暗躍

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◇ 「では、まったく、襲われた理由がわからない、と?」  集まってきた役人たちは、領都の配下であった。 「はい。街道でしたし、強盗だったのではないでしょうか」  役人たちが二人を取り囲む。二人は並んで、何が起きたのかをたずねられた。  薊花が戦ったことなどは伏せ、たた、わけもなく襲われて、逃げながら助けを求めたのだと言って、押し通す。  取り調べのさなか、秦盟が、そっと手を伸ばし、薊花の指に触れる。  その手に、薊花が、そっと手を重ねる。  それで、意は十分に伝わる。  黄昏時に二人で歩いていた男女を、しつこく邪魔するほど、この役人たちは野暮ではなかった。  だが、目ざとい者がいた。  二人の顔を、じっくりと見た後、 「どこかで見た顔だ」と、あたりの者に言う。  秦盟は、考えを巡らせた。  役人は上司に弱い。ここは皇王につながりのある呉明州の力を借りることにしよう。 「実は懇意にしている方がおりまして。  内密でお伝えしたいことがございます。失礼ですが、責任者の方をお呼び願えますか?」  丁重に伝えると、意味を察して、その場の責任者と思われる男が近づいてきた。   秦盟は、他の者にはなるべく見えないように気遣いながら、以前、勅察省の呉明州から渡された記章を、ちらりと見せた。  皇王直属を示す竜の紋様と、身分を示す瑞獣。  それだけで十分だった。 「嫌疑は晴れた。行ってよし」  あたりの者を黙らせ、二人を放す。  ここでこれ以上、顔を知られるのは得策ではない。  秦盟は、薊花の手を引き、さっさとその場を離れた。
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