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◇
「では、まったく、襲われた理由がわからない、と?」
集まってきた役人たちは、領都の配下であった。
「はい。街道でしたし、強盗だったのではないでしょうか」
役人たちが二人を取り囲む。二人は並んで、何が起きたのかをたずねられた。
薊花が戦ったことなどは伏せ、たた、わけもなく襲われて、逃げながら助けを求めたのだと言って、押し通す。
取り調べのさなか、秦盟が、そっと手を伸ばし、薊花の指に触れる。
その手に、薊花が、そっと手を重ねる。
それで、意は十分に伝わる。
黄昏時に二人で歩いていた男女を、しつこく邪魔するほど、この役人たちは野暮ではなかった。
だが、目ざとい者がいた。
二人の顔を、じっくりと見た後、
「どこかで見た顔だ」と、あたりの者に言う。
秦盟は、考えを巡らせた。
役人は上司に弱い。ここは皇王につながりのある呉明州の力を借りることにしよう。
「実は懇意にしている方がおりまして。
内密でお伝えしたいことがございます。失礼ですが、責任者の方をお呼び願えますか?」
丁重に伝えると、意味を察して、その場の責任者と思われる男が近づいてきた。
秦盟は、他の者にはなるべく見えないように気遣いながら、以前、勅察省の呉明州から渡された記章を、ちらりと見せた。
皇王直属を示す竜の紋様と、身分を示す瑞獣。
それだけで十分だった。
「嫌疑は晴れた。行ってよし」
あたりの者を黙らせ、二人を放す。
ここでこれ以上、顔を知られるのは得策ではない。
秦盟は、薊花の手を引き、さっさとその場を離れた。
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