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――どうしてこんなことに。
天井にぼうっと視線を投げながら、そんなことを思った。
白薔薇騎士団の第2位、アリシア・”華凛”・フェニックスの名を耳にして、怖れを成さない魔王軍はいない。
剣聖、白銀の戦乙女、無塵なす王女……くすぐったい二つ名ばかりだが、それも功績あればこそ。
アリシアの赴く所に魔王の影なしと、民や部下からは称えられ、騎士団長の信頼も厚く、聖王たる父上からも認められるに至ったその実力は、われながら低くないと自負していた。
そんなわたしが、いまや指一本さえ動かすことも億劫なのだ。
全身を蝕むダルさと熱。
食欲はなく、寒気も止まらず、ずきずきがんがんと響く頭痛のせいで思うように眠れもしない。
昨日から、こんな調子なのである。
「……うぅ……」
王城の一角、騎士団にあてがわれた特別な居室で、わたしはベッドに伏せりながら、ふがいないこの有様を嘆いているのだった。
実を言えば、もともと体は丈夫ではなかった。幼少のころはむしろ貧弱で、剣を構えることができなければ馬にも乗れず、いまのように騎士団の頂点で活躍する姿など、わたし自身、夢にも思っていなかった。
生まれ変わったきっかけは、女神の加護を受けたことだ。
聖王の系譜に代々伝わる、秘術中の秘術。
その術を身に受ける資格を持っていたことは、わたしにとって唯一無二の救いだった。
加護を得たわたしの前に、敵はいなかった。身体能力は人間の限界を超えて、あらゆる魔術に対する抵抗力さえも身につけた。
どんな呪いの術であれ、この加護を突破することはできない。
そのはずだったのに――
「アリシア様……その、非常に、申し上げにくいのですが……」
今朝のこと。騎士団専属の医学博士にしてあらゆる魔術に精通するスペシャリストは、わたしに負けないほど顔を真っ青にして、言った。
「どうやら、その――風邪、のようですね」
「……かぜ?」
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