■ある羽を持つ種族の話

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■ある羽を持つ種族の話

 その国は風の吹かぬ国だった。閉ざされた国だった。時折空気がうごめく気配もしたが、ただの巨大な固体の移動にすぎない。  そこにはとある種族が住んでいた。羽を持つ種族だ。彼らの背に備わっている筋肉は強靭で、この風の吹かぬ国でも用意に飛び回ることができた。  彼が生まれたのは、この国の薄暗い地下層であった。闇が液体となって我が身に襲い掛かる場所。腐肉の臭いと、それに混じってかすかな食べ物の気配を感じる場所。自我が芽生え、気付いたときには、彼は兄弟たちとこの地にいた。 子供の彼らは、まだ羽を持たない。大人になると初めて、空を自由に飛びまわる羽を手に入れるのだ。故に、彼は兄弟たちと地べたを這いずりまわり、食物を食らって生きていた。光など、めったに刺さぬ場所だった。だけれども、彼の最初の記憶は光である。
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