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ある時、闇の地上に、一筋の光が差した。巨大な聳え立つ壁の向こうから貫く、光の柱。それが、彼が初めて見る、空と言うものだった。彼はあまりの眩しさに顔を背けた。だがしかし、同時に体中が軋み出すほどの劣情を覚えたのだった。光への恋。空への、狂おしいほどの愛おしさ。今すぐにでもそこへ飛んで行って、全身で光と言うものを浴びてみたい。だがしかし、まだ子供の彼には羽がなかった。
「あれに近づいてはいけないよ」
と、彼の母親は言う。
「あれは太陽と言うものだ。いつかお前も大人になったら、その背に翼が生えるだろう。時がきたら、あれ目掛けて飛ぶこともたやすい。だが、それでも、お前は太陽に近づいてはいけない」
「母さん、それはなぜ?」
と幼い彼は聞く。
「あれは悪魔だ。悪意を持った神だ。あれの愛おしさ、渇望する気持ちは、母さんにもわかるよ。だけれども、絶対に近づいてはいけない。あれを目掛けて飛んではいけないんだ。もしも近づいてしまったら、お前のその身は焼かれてしまうだろう」
「でも、あんなに美しいのに」
「あれを求め、あれに近づいたら終わりだよ。身が破滅する。お前の父さんも、そうだった……」
そうして母親はしみじみと手をこすり合わせると、そこで話を終わりにしてしまうのだった。
母親の忠告は、逆に彼の興味をそそらせる結果となった。父さんも、あの太陽と言う奴に恋焦がれたらしい。しかし父さんは、あれを征服できなかった。
どうだ。もし時が来たのなら、きっと自分も太陽めがけて飛んでみよう。そうしていつの日か、あの狂おしい光を征服してみせよう、と。
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