真夜中の人魚ひめ

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 遠泳大会後、ユキが引っ越すまでの間、俺は確かにユキに素潜りを教えた。ユキは何とか潜れるようにはなったが、そのフォームは美しいとは言い難かったように思ったのだが……。  それに「彼ら」とは一体誰のことだろう。  ユキとともに海に入ると、その疑問はすぐに解けた。入るなりユキは一気に海中深く潜っていき、くるりと反転すると俺の横を掠めて浮上する。その泳ぎは彼女が言ったとおりにまったく無駄がなく、流線的で美しかった。そして、何度かユキが息を継いで同じ動きをしていると、海原の向こうから呼応するように彼らが姿を現した。 (イルカだ!)  三頭のイルカが海原から現れると、ユキに甘えるように近寄ってくる。そうか。癒されに来ないかというのは、彼らに会いに来てということだったんだ。  しばらくユキの周りを泳いでいたイルカたちは、新参者の俺にも興味を示した。彼らは俺に近寄ったり遠ざかったりと繰り返してちょっかいをかけてくる。俺が本気で泳いだら、彼らは楽しそうに並んで泳いでくれた。  彼らと戯れるユキを見て、俺は胸を熱くする。  キラキラと瞳を輝かせて、イルカと一緒に深い海の中を自由に泳ぎまわりたいという夢を語っていた十五の少年。彼は今、その辛い境遇を乗り越えて夢を叶えた。そして、更なる夢に向けて力強く歩いている。  そんな彼を俺はいつまでも見届けたいと思う。  月の光を浴びてイルカたちと飛翔するユキの姿を、俺は時間も忘れていつまでも見上げていた。  ―― 真夜中の人魚ひめ 完 ――
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